三條新聞(1998年1月1日付)

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“はいはい”から“立っち立っち”で、生まれて初めて履いて歩いた靴を記念に、思い出にと保存しておく家庭は多いだろうが、欧米では、こうした靴に金、銀のメッキを施して永久保存する習慣があるという。



 最初の一歩。それを記念した靴をファーストステップシューズと呼ぶ。この記念シューズをつくって残してはいかがと、燕市のメッキ加工業者が全国でもおそらく唯一、ファーストステップシューズのメッキ加工を受けている。そのままでは飾りにもならない靴だが、メッキ加工を施すことでインテリアにも早変わり。人生最初の一歩の記念、思い出を常に身近に飾っておくというのもいい。
 ファーストステップシューズのメッキ加工を受けているのは昭和6年創業、まもなく70年のメッキ加工専業メーカー高秋化学(高橋正行社長・資本金1,000万円・従業員32人)。同社は高級ホテル、レストランの食器類の銀メッキをはじめ、洋食器、貴金属のメッキや、最近では精密部品、航空機部品、平成6年2月、打ち上げに成功した日本初の純国産大型ロケットH2の主エンジン部品のメッキを手がけるなどしており、「スプーンからロケットまで」のキャッチフレーズで産地産業の一翼を担っている。主力は、ほかの産地メーカーと同様に貴金属製品のメッキ加工。

 そうした中で、ファーストステップシューズのメッキ加工を手がけるようになったのは、5年前、東京で開かれた専門見本市、ホテル・レストランショーへの出品がきっかけ。「うちはメッキ加工の専業ですから、商品なんてものはないわけですよ。展示スペースに飾るものもない。でもメッキの技術をアピールしたいと思いまして。技術力をPRするには、みんながびっくりするようなものにメッキをしてやろうと考えたのが始まりです」と高橋社長。
 そんな中で思いついたのがマスクメロンのメッキ加工。それも加工段階でマスキングを施してひと切れ分をそのまま残して、ほかはすべて金メッキを施した。見本市会場では、ひと切れ分にナイフを入れて「本ものだぞ〜」と、中身を披露してその技術力をアピール。小間の周りにはメロンの甘い香りが広がり、来場者が注目しないはずはなく、ちょっと指で触れてみては、「本ものだ!」と大騒ぎだったという。



 これに気をよくして、それからは「何でもかんでもメッキして遊んできました」。笹団子、グローブ、落花生、石、子ども服、学生帽子、ゴルフボール、ブラジャーなどの下着、メッシュ地の手袋、木彫の仏像、登山靴などなど。石、木、布、ガラス、プラスチック、陶器類など、今ではあるていどの固ささえあれば、ほとんどメッキできるようになった。
 メッキ業界は電気メッキが主流。これはメッキを施すモノに電気を流してメッキするもので、簡単に言えば、対象物が電気が流れる状態になければならない。このため、仕事が金属製品ということにもなり、産地産業を支えるゆえんでもある。
 つまり、笹団子、子ども服、石などは本来、電気メッキを施す対象外というわけ。それなのになぜ、同社ではこれに対応できるのか。「そこが企業秘密ですよ」と、高橋社長の口は堅いが、聞くまでもなく、電気が通る状態にすればいいわけだ。
 同社では、試行錯誤の末に化学的に対象物に極薄の金属被膜を付着させる技術を開発。金属被膜さえ施せば何でも電気メッキできる。電気が通る状態にする前処理が同社独自のノウハウというわけだ。
 こうした技術を活用した新しい取り組みが、ファーストステップシューズ。欧米に残る習慣に目をつけて、対応することに。昨年10月には「ファーストシューズ」の商標登録を取得。本格的にPRに乗り出している。



 「初めて見る人は『よくできてますねぇ、鋳物ですか』と、必ずと言っていいくらい聞いてきますよ。靴の裏からひもの生地まで、はっきり出てますから」。
 メッキ加工したファーストステップシューズを手に、そのでき栄えを強調する高橋社長。確かに加工前と加工後の靴を並べると、鋳物と見間違えても不思議はない。靴裏のサイズからメーカー名までくっきり。加工すると、重量は少し重くなるが、見た目はそれ以上に重量感もたっぷり。薄汚れた靴もメッキで汚れが隠れてしまい、そのままインテリアに。
 同社が行っている加工は、金ピカのゴールド・ミラー仕上げをはじめ、落ち着いた重量感にあふれるブロンズ・アンティーク仕上げ、さらに銀ピカのシルバー・ミラー仕上げ、銀のつや消しのようなシルバー・アンティーク仕上げの4タイプ。前処理のあと、メッキ加工し、さらに変色しないよう表面を透明のクリア塗装で仕上げる。モノによって前処理に要する時間が違ってくるが、注文から納品まで約1ヶ月。でき上がったあとの手入れはからぶきていどで、傷むことはない。
 「初めて履いた靴だから捨てられないと、保存しておく家庭は多いと思います。でも思い出、記念と言いながらも、ただしまってあるだけ。それならば、飾った方がいいのでは。ポプリや造花を入れるだけで、立派なインテリアにもなりますよ」と高橋社長。加工賃は一足(左右両方)19,000円。将来的には、スケートシューズ、登山靴なども“メモリアルシューズ”としてアピールしてゆきたいという。
 メッキは研磨やプレスと並んで産地産業を底で支えていると言われる分野。この中、自社製品をもつケースが少ない、技術で生きる分野だが、自社技術のアピールと合わせ、その技術を生かして商品提案までしちゃおうという新しい試みといえそうだ。



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